その名前は「⻘は藍より出でて藍よりも青し」という言葉に由来し、日本の純米大吟醸の基準をクリアしながら、日本以上の品質の酒を目指しています。
ニューヨークのプロジェクトでCTOとして活躍する松藤直也さんは、新事業に抜擢された時、特に言葉の面で不安を感じたそうです。
しかし、「英語を話せる人はたくさんいても、獺祭の作り方を知っている人間は自分たちしかいない」という自負から参加を決意し、日本酒造りと英語学習に日々奮闘しています。
ギャビー受講開始から2ヶ月経った現在の心境を伺いました。
手探りで始めたニューヨーク生活
- アメリカ渡航の際に大変だったことを教えてください。
本格的に渡航する前から、出張でニューヨークを訪問していたので、出張のたびに荷物を少しずつ持ってきていて、生活の準備はある程度整っていました。
ただ、旭酒造では今まで海外赴任という機会がなかったので、手続きや準備について教えてくれる先輩がいなかったのです。
そのため、手続きなど色々調べながら手探りで進めていくしかありませんでした。
- ニューヨークの印象はいかがですか?
「アメリカ」や「ニューヨーク」のイメージは、いい意味でも悪い意味でも、イメージしていたものと大きな違いはありませんでした。
全般に「大雑把な国だな」という印象で、テレビを2月11日に購入したのですが、配達が大幅に遅れた上に、やっと届いたと思ったら商品が購入したものと違っていたということがありました。日本ではありえないことなので驚きました(笑)。
アメリカでの酒蔵立ち上げは問題の連続
- 現地で日本酒を作るにあたって苦労したことはありますか?
アメリカについた当初は、日本との単位の違いに戸惑いました。特に酒造りに重要な温度の単位は、アメリカでは華氏が使われていたので、「118度」などと言われても、とっさには分かりませんでした。
そこで、アメリカの単位か、日本の単位のどちらかに統一することにしました。
本来なら、アメリカで酒造りをする以上、アメリカの単位を使うべきだと思うのですが、酒造りにおいて指示を出す時に、私たちが指示を間違えるわけにはいきません。
とても悩んだのですが、結局日本の単位を使うということで落ち着きました。
- ニューヨークでの酒造りに臨む現在の心境を教えてください。
現在は、酒蔵で製造を始める直前の時期なのですが、酒蔵が完成したと思うたびに細かな問題が発生します。水の出が悪かったり、設備が製造に耐えうるものではないことが発覚したりといった問題は、ものすごく多く起こります。
ジグソーパズルに例えると、最後の1ピースがはまらないようなもどかしい思いがあります。問題を解決するために常に調整を行っているのですが、毎日綱渡りをしているような心境です。
「いい酒を造るぞ」と意気込んではいるのですが、内心ドキドキしてばかりです。
現地スタッフとのコミュニケーションは「ぬるま湯につかっている状態」
- 現地スタッフとはどのように交流が行われていますか?
現地スタッフは、私たちが日本から来たばかりで英語がうまく話せないということを、よく理解してくれていて、こちらが理解できないようだったら、かなりゆっくり話すようにしてくれるため、簡単なコミュニケーションは取れています。
ただ、困ったことに、現地スタッフが日本人の発音に慣れてきてしまっています。
例えば、日本語の「ラリルレロ」の音で「R」を発音しても、こちらが何を言いたいのか相手が推測して察してくれるのです。発音に留意しなくても英語が通じるという意味では、ぬるま湯につかっているような状態になっていることを懸念しています。
- 英語が通じているな、と日常生活で感じることはありますか?
スーパーマーケットでは、一言も話さなくても買い物ができるので、英語を話すことはほとんどありません。ファストフード店では、何を聞かれるか分かっているので、オーダーをこちらから先に全て言ってしまうという方法を取っています。
しかし、レストランではまだ緊張してしまいます。
オーダーの後に色々尋ねられても聞き取れないし、こちらが言うことも相手が聞き取ってくれないことがあって、なかなか英語が通じないもどかしさを感じています。
- それでは、仕事面で英語に関する成功体験はありますか?
仕事面では、非常に正確なコミュニケーションが求められます。相手が英語で言っていることがなんとなく分かることはありますが、自分の感覚に頼るわけにはいかないので、通訳を介してやり取りをしています。
しかし先日、外部の業者と2人きりになったことがあって、「あと5分したら英語を話せる者が来るから」と言っても聞いてくれず、私が業者から説明を受けたということがありました。
正確を期すために、後で他の人に説明された内容について確認したところ、私の理解で間違いないと言われたので、英語が聞き取れているという手ごたえを感じることができました。
ギャビーでのアセスメントテストでは進歩を実感
- 英語学習の進捗状況について
3ヶ月のコーチング期間を終えて、アセスメントテストを受けました。
最初のテストでは「大学生の時の学生生活についてスピーチする」という内容だったのですが、1分間時間をもらっても、まず大学生の時何があったか思い出せないし、それを英語にするのは難しくて、「昔のことだから覚えていない」と答えることしかできませんでした。
しかし今回、「一番思い出に残っている旅行」についてスピーチをした時には、「行った場所」「同行した相手」「食べ物がおいしかったこと」「景色が良かったこと」を何とかひねり出すことができました。
「正しい英語でなくても、とにかく何か言う」ことができるようになったのは、少し進歩したなと思いました。
- ギャビーでの英語学習はどのように進んでいますか?
セルフ・トレーニングでは、UG speedのレベル3を学習中なのですが、普段話す時に、過去形や「三単現のs」を正しく使うよう意識するようになりました。
ただ、文法的な正しさを意識するあまり、日常会話で不規則変化の過去形や過去分詞形を使うべき時に、言葉が出なくなってしまうという問題があります。
ライブ・セッションでは、最初のフリートークで酒蔵立ち上げの近況について聞かれます。
「酒蔵で起こったトラブル」について話していて、「うまく言えなかったこと」や、「単語のチョイスを間違えたこと」について、正しい英語表現についてアドバイスをもらっています。
酒造りを無事に始めたいという意気込みに尽きる
- 今後の意気込みを聞かせてください
赴任してまだ1ヶ月なので、まずはとにかく酒造りを無事に始められるようにしたいということに尽きます。
また、アメリカの事情や文化は日本と全然違うということを実感しているので、人種差別などのデリケートな部分も含めて、アメリカを理解し、アメリカに根を張って暮らしたいと思います。
そして、これからアメリカに赴任する後輩がいたら、自分の経験を十分伝えられるようにしていけたらと思います。
インタビューを終えて
ニューヨークでは、何かしらのハプニングが絶えず起こり、気が休まらない日々が続いていると語った松藤さん。
海外で長期で生活するということは、日本では簡単にできることでも、「一つ一つのことをクリアしていく」という感覚になります。一方で、トラブルや対処しなければならない状況にぶつかるほど、その土地での経験値や英語力は自ずと向上していくはず。
数ヶ月経って、「気付いたらこんなこともできるようになっていた」という経験は海外生活ならでは。そんな気付きも次回インタビューではお聞きしたいと思います!