しかし、リーディングやライティングに自信はあっても、英語がなかなか聞き取れなくて苦戦している英語学習者は多いでしょう。
実は、英語が聞き取れないのには、いくつかの原因があります。
英語を聞き取れるようにするには、自分がどんな原因を抱えているのか特定した上で、原因別の対策をとる必要があるのです。
「英語を聞き取る」プロセスについて
「英語を聞き取る」というのは、耳で音をキャッチする(音声知覚)だけではありません。
聞き取った音を脳で処理するプロセス(意味理解)も重要になります。
音声知覚(耳で聞きとる)
音声知覚のプロセスでは、聞こえてきた音を分析し、「英語の音」として認識します。
英語の音を耳でキャッチするには、英語の「発音ルール」を理解している必要があります。そして聞こえた音を単語として組み立てる「語彙力」も必要です。
意味理解(脳で処理する)
聞こえた音を脳で処理するには、聞こえた単語の意味を理解する必要があるため、ここでも「語彙力」が必要になりますし、単語を組み立てる「文法力」、そして英語のスピードについていける「言語処理能力」も必要になります。
英語が聞き取れない理由4つ
英語を聞き取るのに必要な要素をまとめると、以下の4つになります。
そうすると、英語が聞き取れない原因は、以下の4つに絞ることができます。
それぞれどのような問題なのか、詳しく見ていきましょう。
英語の発音ルールを把握していない
英語は日本語よりはるかに音の多い言語で、「あ」だけでも /æ/ /ʌ/ /ɑ/ /a/ の4種類の音があるといわれています。
英語をカタカナのままで理解していては、英語の音を聞き取ることはできません。
さらに、言語にはその言語特有の音声変化のルールがあります。
英語を聞き取るには、英語の個々の音を理解するとともに、音声変化のルールを把握する必要があるのです。
語彙力が不足している
把握している単語の数が少ないと、それだけ英語を聞き取る力も弱くなります。
また、すでに豊富な語彙力を備えている人でも、単語とその意味しか把握しておらず、その単語がどんな音なのかについての知識が抜け落ちていると、英語が聞き取れない原因になります。
文法知識が不足している
現在完了や仮定法など、高校レベルの文法事項まで把握するのは後回しで構いませんが、中学レベルの基礎的な英文法は把握しておかないと、英語の文を理解することは難しくなります。
また、英語と日本語では語順が全く違うので、基本5文型(SV・SVC・SVO・SVOO・SVOC)の知識は必須です。
特に基本5文型の知識が不足していて、英語が聞き取れないというケースが多いでしょう。
言語処理能力の不足
最も大きな原因となるのが、英語を英語のまま考えることができず、一旦和訳して考えるクセがついてしまっている、いわゆる「英語脳」ができていないという問題です。
そして、英語を英語で考えることはできているものの、英語の処理速度が追い付いていない可能性もあります。
英語を聞き取れるようにするには
どれか1つ、あるいはいくつかの原因に、思い当たるふしのある方も多かったのではないでしょうか。
この章では、それぞれの原因への対策を紹介します。
英語の発音ルールを理解する
先ほど紹介したように、英語には日本語の「あ」に当たる音だけでも4種類の音が存在します。
その中でも特に /æ/ と /ʌ/ は、hat /hæt/(帽子)・hut /hʌt/(小屋)のように、その音ひとつだけで単語の意味が変わってしまうので、別々の音として認識する必要があります。
さらに英語には、「リンキング(連結)」・「リダクション(脱落)」・「同化(アシミレーション)」・「ら行化」・「弱形」といった「音声変化」のルールが存在します。
音声変化とはどんなものかというと、例えば次の英文を見てください。
Let’s take a picture here.
ここで写真を撮りましょう。
この文は、「レッツ・テイク・ア・ピクチャー・ヒヤー」とは発音されません。
例えば「take a」の部分は「テイカ」のように「take /teɪk/」の語末の /k/ と 定冠詞「a」がくっついた状態で発音されます。この現象を「リンキング」といいます。
英語の個々の音と、英語の発音ルールを、まずは理屈で把握しましょう。
ルールを把握したら、簡単な英語音声に触れながら、自分でもマネして発音してみましょう。
自分で発音できる音は、聞き取ることも可能になります。
単語・フレーズの知識を身につける
また、覚えている単語自体は豊富でも、それぞれの単語の正しい発音を把握していないと、リスニング力には結び付きません。
英単語を覚える時は、必ずお手本となるネイティブの音声とセットで覚えるようにしましょう。
英語が聞き取りやすくなるだけでなく、正しい発音で英単語を復唱しながら覚えることになるので、単語が定着しやすくなるというメリットもあります。
文法力を身につける
また、英語と日本語では語順が違うことが、英語を聞き取る上でカギになります。
英語の語順を把握するためには、英語の基本5文型(SV・SVC・SVO・SVOO・SVOC)をしっかりおさえておきましょう。
以下の文を見てください。
John made Mary happy.
ジョンはメアリーを幸せな気持ちにさせた。
この文は、主語(S)・動詞(V)・目的語(O)・補語(C)で構成されています。
この文を聞き取る時、単語の羅列として認識してしまうと、誰が「幸せになった」のか判断が難しくなりますが、第5文型(SVOC)を把握していると、意味が理解しやすくなります。
学習参考書などを通じて、これらの文法ルールを把握したら、実際にどんどん使って身体になじませましょう。
英語話者の友人や知り合いがいる場合、練習相手になってもらってもよいのですが、そういった相手からフィードバックをもらえることはあまりありませんよね。
おすすめは、英語コーチなど、訓練を積んだプロからフィードバックをもらえる環境です。
文法事項を把握して、実際に使って、トライアンドエラーを繰り返すことで、文法事項を身につけることができ、結果的にリスニング力アップへとつながっていきます。
英語を素早く処理できるようトレーニングする
しかし、英語を英語で理解する英語脳が出来上がっていなかったり、英語の処理速度が遅いと、ナチュラルスピードの英語音声についていくことはできません。
英語脳を作り上げるには、理解可能なインプットに大量に触れるのが効果的です。
リスニング教材より難易度の低い教材を使ったり、同じリスニング教材でもスピードを落としたりして、たくさん英語に触れましょう。
いったん和訳する余地がないほどたくさんの英語に触れるのが、英語脳を形成するコツです。
そして英語の処理速度をアップさせるには、たくさん英語を聴くだけでなく、英文を大量に読む「多読」のトレーニングも効果的です。
どちらにせよ、英語のトレーニングを行うにあたっては、トレーニングの「量」がカギになってきます。
無理をして挫折しては元も子もないですが、無理のない程度にトレーニングの量をこなすことで、ある日突然、聞き取れなかった英語が、突然聞き取れるようになるでしょう。
まとめにかえて
TOEICでハイスコアをマークしたいというのが動機なら、確かに英語を正確に聞き取れるようにする必要があるでしょうね。
しかし、英語は本来コミュニケーションツールです。
海外の友人と仲良くなりたいと思っていたり、ビジネスの場で自分の意見を発信することを目指している人も多いかもしれませんね。
もし、人間相手に英語でコミュニケーションをとっていて、うまく聞き取れないことがあったら、「Could you say that again?(もう一度言っていただけますか?)」などと聞き返してみましょう。
「Could you say it in simpler words?(もっと簡単な言葉で言ってもらえますか?)」や「Could you speak more slowly?(もっとゆっくり話してもらえますか?)」などとリクエストするのもよいでしょう。
英語を話す人は、多種多様なバックグラウンドを持っています。そして、英語話者の8割はノンネイティブです。
「もう一度言ってもらえますか?」と聞き返すことは、不自然なことでも恥ずかしいことでもありません。
それに、日本人同士が日本語で話していても、相手の言っていることを100%聞き取っているわけではありませんよね。
日本人が英語をすべて正確に聞き取れないのは、当たり前のことです。
相手の言うことを聞き取るようにする努力はもちろん大切ですが、聞き取れなかった時はためらわずに聞き返しましょう。
聞き取れなかったのに曖昧な笑みを浮かべてうなずいてしまう方が、グローバルなコミュニケーション、特にビジネスの場ではよほど問題になります。
英語を聞き取れるようにするトレーニングとして、実践英会話に勝るものはありません。
英語が聞き取れないからといって臆病にならず、ぜひ積極的に英語でのコミュニケーションに臨んでほしいと思います。